2017年7月7日 第1刷発行
著者:木村 尚敬
発行所:日本経済新聞出版社
【著者紹介】
(株)経営共創基盤パートナー取締役マネージングディレクター。IGPI上海執行童事。サンデンホールディングス社外取締役、モルテン社外取締役。グロービス経営大学院教授。ベンチャー企業経営の後、日本NCR、タワーズペリン、ADLにおいて事業戦略策定や経営管理体制の構築等の案件に従事。IGPI参画後は、製造業を中心に全社経営改革(事業政変・中長期戦略・管理体制整備・財務戦略)や事業強化(成長戦略・新規事業開発・M&A等)など、様々なステージにおkる戦略策定と実行支援を推進。(著者紹介より抜粋)
【オススメ度】 | |
読みやすい度 | ★★★☆☆ |
お役立ち度 | ★☆☆☆☆ |
改革に本気な中堅に合う度 | ★★★★★ |
先週に続き、近所のBookOFFでの一冊です。
タイトルに惹かれて、数ページ眺めて即決しました。
本書は、「ブライトスキル」を、論理的思考や財務・会計知識の類と定義し、その反面にある、「他人に影響を与え、組織を動かすため」の泥臭いスキルを「ダークサイドスキル」と呼称しています。
そして、このスキルを使って組織改革を実施するべき層は、現場の1次情報を掴むことができ、トップにリーチができる、いわゆる「中間管理職」であると説明されています。
特に、構成人数が非常に多く、企業文化が確立している「古くて大きな会社」の組織の動かし方を述べています。
この「ダークサイドスキル」を、本書では大きく7分類し説明されています。
始めに暴露してしまうと、対象会社として、私の会社はぴったりマッチしています。
ですが、目指すべき姿が、今私が進んでいる方向と真逆であり、個人的には役に立つ本ではありませんでした。
但し、現在の組織でしっかり昇進したい人や、組織を良い方向に変えていきたいと思う人には、格好の良書であると言えます。
個人的な感想としては、この辺りのスキルを重視出来ない人間は、管理職階以上にはなって欲しくないですね。
組織が腐っていくので・・・
本書の前提として、改善の対象組織には特定の条件があります。
それは、「中庸」であること。
つまり、組織の規模、重要性、組織の利益、全てにおいて、平均的であるということです。
例えば、毎年大幅な赤字続きの部門やセグメントがあれば、当然目立ちますし、経営層も優先的に改革に乗り出すでしょう。
逆に、重要度の高いプロジェクトや組織の根幹を為す部門であれば、トライ&エラーで様々な施策が試行錯誤され、環境の変化に適用していくものです。
本書のターゲットは、上記の間に抜け落ちる部門です。
すなわち、規模も平均、重要度も平均、利益は収支トントンから良くてプラス、悪いとマイナスが毎年続く・・・
こんなセグメントは、急に大ナタを振るって改善させる必要性がない代わりに、経営陣には取り立てて目立つ部門でもないので、従来踏襲型の運営と文化が根付きます。
そして、古くて大きな組織の中には、この「中庸なセグメント」が一番大きいシェアを占めているので、ここを改善しない限り、会社全体での改善は成就しない、という論説です。
・・・自分の会社と自分の組織を説明されているかと思いました。。。
どこの会社でも、似たり寄ったりなんだなぁと感じました。
ここから、そんな中庸な組織に属する中間管理職が、自分の部署を改善させるためにトップを動かすスキルが紹介されていきます。
特に関心した3つのスキルをご紹介致します。
課長やリーダーは、自分が属する業務について、顧客や現場の声を直接集めることができます。
つまり、「1次情報」に触れることができます。
一方、組織のトップは、通常業務の中では1次情報に直接触れることは少なく、リーダーが持ち寄った2次情報を基に外部環境と照らして組織の方向性を判断します。
つまり、トップの判断は現場リーダーからの2次情報からの影響を濃く反映すると言えます。
社会人若手であれば、組織のトップに情報を伝える機会は少ないですが、現場のリーダーともなれば、定期的なミーティング等でトップと情報交換をする機会が増えます。
この「トップに適時リーチできる立場」と「保有情報の質と量がトップに勝っている」特性を活用して、自分が考える組織の向かうべき方向性にトップの意識を向けさせるため、1次情報の収集・報告を行い、最終的に組織の方向性を自分の考え通りに向けさせることを「情報の非対称性を活用する」となります。
「ダークサイドスキル」と仰々しい名前が付いていますが、論じていることは至極まっとうな意見ですね。
一昔前に流行った「KY(空気読まない)」が、ここで登場してきました。
KYな部下とは、文字通り、「組織の中の多数意見に迎合せず、個人的な少数意見を臆面もなく声高に主張する人」です。
これは、多数派とは価値観が異なる部下と共に、例えば、外国人労働者も含まれます。
良くも悪くも、日本的企業文化が極まると、組織の中で「阿吽の呼吸」や「皆まで言わずとも共通理解ができる」ということが起こります。
この事自体は、コミュニケーションコストを下げて、迅速な情報共有や共通認識の成立に繋がるので、一概に悪いこととは言えません。
ただ、少数派だけど真理を突いた意見や価値観を、組織として黙殺することに繋がります。
従来踏襲型の組織であれば、外部環境の変化が激しい時代こそ、変化が求められるため、少数派意見の黙殺は変化から取り残される「ガラパゴス」化を招きます。
当然、中には、本当に意味をなさない「KY」」な発言をする部下もいるとは思います。
少数派意見の真贋を見極め、適切な情報をトップに伝える能力が、リーダーに求められる役割の1つに繋がっていくと説明されています。
社内外に神経ネットワークを張り巡らすことを言っており、一言でいえば「人脈」形成にあたります。
自部門の1次情報だけではなく、社内の関連部署の1次情報や、自部門を改善する上で避けれれない部門との人脈。
あるいは、外部の情報をもたらしてくれる人物などです。
情報収集の場面のみならず、自部の改革方向を少しずつ周囲に伝播してくれる人や、非公式な方法で改革案の賛同を取り付けてもらう根回しも含まれます。
そのため、自部のみの人間関係に終始せず、多種多様な組織の関係者と繋がりを保つため、定期的な接触を保つ努力の大切さも説明されています。
一昔前なら、「勉強会」や「囲む会」と称して、特定のメンバーが夜間の飲み会を定期開催することが主流であり、今でも広く行われています。
ただ、夜の付き合いを重視しない層がリーダー職階に就く時代にもなってきており、飲みにケーション一辺倒では人脈形成が難しいこともあります。
そこで著者は、ランチ会や業中の情報交換会等の有用性について言及しています。
特定の人間と狭い人間関係で安定していると、居心地が良いですが、従前踏襲型の組織を変革させていくためには、違う立場の人との広い関係を保つことが肝要と言えます。