『言い訳』

2019年08月14日 第1刷発行

 

著者:塙 宜之

 

聞き手:中村 計

 

発行者:茨木 政彦

 

発行所:株式会社集英社

 

【著者紹介】

塙信之

芸人。1979年、千葉生まれ。漫才協会副会長。2001年、お笑いコンビ「ナイツ」を土屋伸之と結成。'08年以降、3年連続でM-1グランプリ決勝進出。'18年、同審査員。THE MANZAI2011準優勝。漫才新人大賞、第68回文化庁芸術祭大衆芸能部門優秀賞、第67回芸術選奨大衆芸能部門文部科学大臣新人賞など、受賞多数。

 

中村計

ノンフィクションライター。1973年、千葉県生まれ。『勝ち過ぎた監督』で講談社ノンフィクション賞受賞。

(著者紹介より抜粋)

 

【オススメ度】  
読みやすい度 ★★★★★
お役立ち度 ★☆
M-1見直したくなる度 ★★★★★

久しぶりの3連休ですね。

 

皆さん、いかがお過ごしでしょうか?

 

東京は良い天気ですが、春一番が強くて体感温度は寒いです。

 

もうすぐ新学期、新年度ですね。

 

よい年度を送れるように、新年から今までの3ヶ月を総括して、新年の目標を守れているか、これからどう過ごしていくか、決意を新たによいスタートを切りたいと思います。

 

では、今週の1冊です。

 

前々からネットで存在は知っていたので、Amazonで取り寄せました。

 

全体を通して、M-1の歴史を、第Ⅰ期(2001年〜2010年)と第Ⅱ期(2015年〜)に分けて、各年の出場者の評価・分析をしている本です。

 

聞き手である中村氏からのQに対し、塙が回答した一問一答を繋げながら、1冊の本にまとめられています。

 

その中でも、「関西芸人」「関東芸人」に大きくタイプ分けをして分析がなされています。

 

冷静で客観的な分析がなされており、お笑い好きな方なら思わず唸ってしまう内容が盛りだくさんです。

 

お笑い分析本としては優秀ですが、(当然ですけど)ビジネス書ではないので、勉強になる部分は少なかったです。

 

しかしながら、お笑い一本で有名になり生計を立てている筆者が、迷って悩んで、「ヤホー漫才」という武器を手に入れるまでの変遷にも触れられています。

 

この苦悩とブレークスルーは、お笑いでもビジネスでも共通なのだと感じました。

 

以下に2カ所引用したいと思います。


〜初めて本気でネタを作り始めた〜

デビュー当時のナイツは、塙・土屋が一緒にネタを考えていたそうです。

 

ともに白紙の状態でファイミレスや互いの家に集まって、ネタを作り始める。

 

でも家だとついテレビゲームとかで遊んでしまい、なかなかネタを考えようという雰囲気にならない。

 

そうこうしているうちに時間だけが過ぎていき、「じゃあ、今こんな漫才が流行っているから・・・」と、安易に借り物に走ってしまったそうです。

 

これを、「塙が10割書いてくる」というやり方にかえたそうです。

 

当時、塙はコールセンターで夜勤のアルバイトをしており、深夜になるとほとんど電話はかかってこず、時間はたっぷりあったようです。

 

その時間を使って、「1日1本、ブログにネタを書く」という制約を自らに課したそうです。

 

それまでは1ヶ月に1本ぐらいしか作っていなかったとのこと。

 

そいうして、めちゃくちゃたくさんネタを書き、めちゃくちゃたくさん人前でネタをやっていると、いろんなことに気づくようになったそうです。

 

それだけ量をこなせば、ウケるところとウケないところが分かってきて、嫌でも洗練されてくる。

 

『僕はこれまで、芸人たるもの、いわゆる努力のようなことはすべきでないと思っていんです。

 

どこか、カッコ悪いことだと思っていた。

 

自分の才能を信じてこの世界に入ったのだから、そんなことをせずとも口を開けて待っていれば、誰かがおいしいものを運んできてくれるに違いないと。

 

とんでもない思い違いでした。』

 

本書では、そう邂逅されています。

 

さまざまな成功体験本にも記述されている「量より質」「質より量」問題ですが、私は、「量より質」で成功した体験を本で読んだことはありません。

 

たとえば、ネット上のブログやweb記事では、「楽して成功的」な体験談が書かれていることもあり、それ自体は真実なのだと思います。

 

ただ、「本を出す」ということは、長く大きく成功している人だからこそのアウトプットであり、そのような成功者に「楽して一発」を支持する人は些少だと思います。

 

どの筆者も、「継続」「地道な努力」「何度でも何にでも挑戦」といったメッセージが強く出ています。

 

充実した人生を送るためには、兎にも角にも、「質より量」をこなすべきであるのだな、と改めて感じました。

 


〜好きなことを夢中になって語っている人はそれだけでチャーミング〜

中川家のネタには、よく電車のシーンが出てきます。

 

発車するときのアナウンスや、電車が走る音のモノマネなど、電車ネタは中川家の鉄板ネタです。

 

二人が電車が大好きだからです。

 

ナイツは、自分たちのスタイルを決めかねて迷走していた時期、本番でよくネタを噛んでいたそうです。

 

借り物のスタイルなので言葉が体に馴染まず、つっかえたり上滑りをしていた。

 

そのことに気づいてから、ナイツは野球や競馬といった、好きなことでネタを書くようになったそうです。

 

そして、野球ネタがそこそこウケるようになってきたから、「イチロー」を「サブロー」と言い間違えるような、小ボケを混ぜるひと捻りを加えました。

 

ただ、好きな人物のことを語っているにも関わらず言い間違えるのは不自然だ。

 

何とか工夫が出来ないか。

 

そこで発明されたスタイルが、有名なアレです。

 

「昨日インターネットで調べていたら、すごい選手を見つけたのですが・・・、イチローってご存じですか?」

 

「知らない人の方が少ないよ!」

 

という、有名な「ヤホー漫才」です。

 

間違えて訂正、間違えて訂正、間違えて訂正・・・と、小ボケを機関銃のように連射するスタイルです。

 

塙自身が、ボソっと話すタイプなので、小ボケが合っていたのだろうと、本書には記載されています。

 

ちなみに、今までは事務所のネタ見せでOKがもらえない限り、ライブでは取り上げない方針だったようです。

 

ところが、ヤホー漫才は初めて、事務所でのネタ見せでは「小ボケばかりだね」とNGであったにも関わらず、ライブでネタを出したそうです。

 

結果は大ウケ、会場がうねったとのこと。

 

『言葉が笑いのレールに乗るとは、こういうことなのかと思いました』

 

と邂逅されています。

 

自分自身の仕事を省みると、上手にプレゼンできる場合と、イマイチに終わる場合があります。

 

ただ、練習量が違うのかというとそういうわけではなく、全く練習無しにいきなりプレゼンを始めても、良い手応えの時もあります。

 

ちゃんと練習したつもりなのに、言葉がつっかえたり噛んだりしてしまうこともあります。

 

人数の違いでも無く、緊張してるかどうかも関係なく・・・

 

自分の場合、「他人がつくったプレゼン資料をそのまま使用する」か、「自分で一から作成・もしくはありものの資料に加筆・修正した資料を使用するか」で、プレゼン結果が大きく異なります。

 

今の仕事が「めちゃめちゃ好き」というわけではありませんが、それでも、他社にプレゼンする以上は「こういう点が良いところです」と、理屈も含めて言えなければ話がウソっぽくなることは分かりました。

 

それから、汎用のプレゼン資料を使用する際にも、スライドの順番を変えたり図を一部増やしたり不要なページをアペンディクスにしたり・・・と、何かしら工夫をしてから持っていくことにしています。

 

やはり、他人からの借り物100%ではなく、「自分にあったもの」を用意して本番に臨むべきだという部分の共通点が見いだせて、このページを読んで一人でニンマリしていました。

 

あれだけ話芸が得意なナイツでも、噛んだりつっかかったりしたのだなぁと思うと、いかに「自分にあっている」ということが大事なのか、勉強になりました。